2003-8-31up
指輪を握って・・・
| LOTRの映画を何度も見ていると、いくつかの動作が重要な意味を持っていることに気がつきます。セリフで言うよりも、ある動作によって、さまざまな感情を示すシーンが随所にあるんですね。ここでは、第一部、第二部で私が気がついた、動作と感情の関係について、ちょっとお話ししてみようと思います。 その１：指輪を握る。 最初は第一部、袋小路屋敷のフロド。指輪の正体を知らされて、ガンダルフに譲ろうとして拒まれたあとです。指輪を握って、 「What must I do?」 よーく見てみると、この瞬間、イライジャが表情を変えていることがわかります。それまでのおびえた表情（これもまた心をそそるんですが）から、何かしら決意を秘めた表情に。このセリフの日本語訳は難しいのですが、指輪を握ってmustといっている点がポイントです。mustというのが、「・・しなければならない」という強い意味を持つ助動詞だということは中学の英語で習いますので、それを加味してこのセリフの意味をくみ取っていただければ・・・ ここが、それまでごく普通の若者だったフロドの、最初の変貌です。指輪を自分がホビット庄から持ち出さなくてはならない、と決意したことを示しています。 次は、ロスロリエン。ガラドリエルの水鏡を見た後です。ガラドリエルに指輪を拒まれ、指輪の仲間にも指輪が影響を及ぼし始めていることを警告され、「どんなに小さな者でも、未来を変えることができる」と励まされたフロドは、それまで手のひらの上に出していた指輪を握っています。正確にはその手の動きがクローズアップされて一瞬映るだけですが。（だからこの映画は一瞬たりとも油断がならない）ここでも、フロドが指輪を握ることで、指輪を負っていく決意を示しています。 そして、第一部のラスト近く。湖の岸で、一人でモルドールに行く決意を固めたフロドは、指輪を握ってポケットにつっこみ、舟に飛び乗ります。もう、このシーンの解説は不要ですね。百万言費やすよりも映画を（DVDを）見てください。 このように、第一部では、「指輪を握る」という動作は、フロドの指輪所持者としての決意を示すものとして用いられています。しかし、興味深いのは、同じ動作が第二部では全く異なる意味を示すものとして使われていることです。 第二部で、フロドが指輪を握っているシーンは一つ。イシリエンで眠っているときも、鎖についた指輪をしっかと握りしめています。これは、決意ではありません。死者の沼地でゴラムそっくりに指輪を愛撫していたことと相まって、指輪が次第にフロドを支配し始めていることを暗示しています。 この調子で行くと、第三部のクライマックスでは、指輪を握りしめて・・・となりそうですね。 その２：膝を折る。 最初は、第一部のエルロンドの御前会議の場。「I will take the Ring to Mordor」といったフロドに対して、アラゴルンが初めてその前に膝をつき、「You have my sword」と誓います。実はこのシーン、私は大好きなんです。ホビットのフロドは小さいので、人間のアラゴルンが膝をついてちょうど目線があうのですね。「目の高さを合わせる」というのは、相手を尊重していると示す重要な要素です。アラゴルンの優しさやこの小さなフロドに対する敬意がこの動作一つで直感的に伝わってきて、何回見ても「いい〜」と転げ回ってしまうわけです。 そして、そのリフレインとして、アモン・ヘンでのこの二人の別れの場でも同じ動作が出てきます。フロドに「Would you destroy it?」と指輪を差し出されたアラゴルンは、それを見つめながらも、膝をつきながら指輪をフロドの手に握らせ、その手をフロドの胸元に戻してやります。ここのアラゴルン役モーテンセンの動作がまた流れるように美しく、映すカット割りも見事なので、また私は転げ回ってしまうわけです（笑） それから第二部。ずっと立ったままで捕らえたフロドと話していたファラミアですが、最後のシーンで初めて膝をつきます。そして「I think at last we understand one another, Frodo Baggins」と告げて、フロドとサムを解放します。自分の命を賭けて。（ここで、ああよかったと安堵したファラミアファンは私一人ではあるまい） 文章作品を映像化する場合、つい言葉に重きをおきすぎて、言葉で説明しすぎてしまうということになりがちです。（例：銀河英雄伝説のアニメ第四期。原作に忠実なことは認めるが、死の床についたラインハルトを見つめるアンネローゼの心情まで、ナレーターがしゃべることではない）特にナレーションがある場合その危険は大きいのですが、この映画の見事な点の一つは、映像で表現すべきところはきちんと映像で勝負している、というところです。 でもって映像でこそ威力を発揮するシーン（例：ヘルム峡谷の戦闘シーン）は凄いできだしなあ。 |