２０１８年５月３日（木）銀河英雄伝説　Die Neue These　第五話　第十三艦隊誕生

冒頭から、意味ありげに登場するヤン家の散水器。いや今回の隠れた主人公はこの「散水器 」くんではないでしょうか。平時の用途は芝生に水をやるスプリンクラー、火事の時には消火栓、そして今回はアバンでヤンをずぶ濡れにして私を爆笑とともに萌え転がせ、クライマックスにも大活躍という万能選手でございます。いい仕事しすぎだろ。 　これからたびたび登場するであろう「ヤンをたたき起こすユリアン」の場面から始まりますが……ほんと、表情の変化が丁寧だなあ、と感心いたします。「慰霊祭に遅刻するなんてあり得ませんよ」からの「そうか、そうだよなあ」のヤンの表情と、ユリアンの気遣うような表情が実に細かい。第四話を見て、第二話を知っている視聴者には実によくわかる。この他にも、ヤンの表情変化は今回、実に丁寧で見応え有りました。前回は成長変化だったけど、今回は表情変化。演説の場のシニカルな表情から、ユリアン、ジェシカと向き合うときの暖かい表情まで、書き出すと書き切れないけど。 　内容としては、ここで第二話終了時点の時間軸に戻って、アスターテの慰霊祭から憂国騎士団の襲撃、そしてシトレの呼び出しからイゼルローン攻略命令、と原作の第四章「第十三艦隊誕生」をほぼ踏襲しております。ただし、視聴者を仰天の渦に叩き込んだ、ヤンのカーチェイスをのぞいて！　 　いや驚きましたね。すみません、同盟軍士官学校の履修課程を甘く見ておりました。戦闘艇操縦実技５９点でもあれくらいの運転はできるのか！　というよりヤンに車のマニュアル運転ができたのか！　まあでもこの人、一応戦時国家で正規の訓練を受けた軍人でした。家屋破壊弾投げ込まれたときもとっさにユリアンを伏せさせていたし。本作のヤンなら、もしかして、あんなどじを踏むことなく、あと五分頑張ってその……（期待）。まあただ、あのトラックの方も本気ではなく脅しでしょう。 　ただ映像的には楽しかったし、この状況下でもパニクらないヤンはさすが、と思えましたが、ここはどちらかというとおまけですね。本題は、トリューニヒトの演説でも起立しないヤン（またこの応答が、原作通りなんですが喧嘩を高値で売ること売ること。それはシェーンコップやポプランの上官になれるわけだわ）、そして空港の場でのジェシカとのやりとり、ここは本来原作にある老婦人と孫の続きも欲しかったところですが、あれは映像で表現するのは難しいところでしょうねえ。興味ある方は原作をごらん下さい。この空港の場は原作の白眉だと私は思っています。ともかく、「戦争の勝ち負けに道義上の優劣はない。名将と愚将との間に道義上の優劣はない。愚将が味方を百万人殺すとき名将は敵を百万人殺す。百万人殺すことに違いはない」というヤンの根幹がきちんと書かれていたのでよしとします。 　ヤンとユリアン、ヤンとキャゼルヌの軽妙な、ときにシリアスな掛け合いも今回のききどころ（「どうしてお前さんは濡れているんだ」で大笑いした）。そして気になるのは、ここでもうあの、クリスチアン大佐を登場させてきたところ。しかもどうも憂国騎士団のリーダーもやっているらしい。クリスチアン大佐は原作既読の方にはご存じの通りの結末を迎えるので、その彼が憂国騎士団の中にいる、ということは、そもそも憂国騎士団は最初からトリューニヒトが作った組織ではなく、既にあったものをトリューニヒトが現在利用しているだけなのだ、という解釈も成立します。というかその方がいかにもトリューニヒトらしい。それともクリスチアン大佐がベイ准将の立場になるのかも知れませんが、これはこの先のお楽しみですね。 　そのトリューニヒトですが、一見あくのないさわやかさ。「普通」といわれておりますが、これが曲者なのではないか、と私はにらんでおります。ちょっと第三話の皇帝陛下と通じるところがありますね。ただもう少し、演説がのせてくれると嬉しいのですが。 　シトレ元帥との場も三次元チェス以外はほぼ原作の会話一部省略版。ヤンがいっていることは「基本戦いは数です」ということなのですが、これ、将来の銀河帝国軍の皆さんが聞いたら、いっせいに「おまえがいうな！」と突っ込まれること必定です。というかシトレさん、この話を聞いて「半個艦隊でイゼルローンを攻略しろ」というんだから、そりゃ「即、断らないのは成算があるんだろ。よしその奇術やってこい」といっているんですよね……その裏の人事事情までキャゼルヌとヤンの会話でフォローしてきたのはすごい。感心しました。 　結局起きて待っていたユリアンを見て、「しばらくユリアンの紅茶が飲めなくなるな」と原作にもあるヤンの感慨で今回は幕。まじめにね、ユリアンというのはヤンにとって、自分が戦場から生きて帰る大きな理由の一つだ、と思うのですよ。 　次回はイゼルローン攻略前篇。とりあえず、後のヤン・ファミリーのあの人やらこの人やらが登場してくると思われますので楽しみです。そしてイゼルローン攻略はどのように展開するのでしょうか？