番外一 炬燵蜜柑の攻防戦

ちょっと気の迷いでこんな、真田家のお茶の間の攻防戦を。
きり「あ、蜜柑がなくなったわ」（ちらっ）
信繁「なぜ私を見る。お前が取りに行け」
きり「だって。おこたから出たくないもん」
信繁「私だって出たくない。そして私は蜜柑は食べたくない。お前も出たくない。だがお前は蜜柑が食べたい。ならお前が取りに行くべきだろう。いやならそこの饅頭でも食べていろ」
きり「初恋のおなごに、蜜柑を取りに行かせる気？」
信繁「誰が？　この間には何もない！」
きり「饅頭があるわよ」
信繁「そういう話じゃないっ」
ガタン
信繁「兄上？」
信之「おれが取ってくる」
信繁「そんな。なら私が」
昌幸「おう、源三郎。立ったのならちょうどいい。（徳利を振りながら）酒のおかわりをもってきてくれ。ぬる燗で頼む。肴も適当に見繕ってこい」
信之「かしこまりまし、た。（メモする）肴は、平野殿から巻き上げたスルメのあぶりでよろしいですか、父上」
昌幸「おう、かまわん」
信之「ではしばしお待ちを」（徳利を受取り、ついでに炬燵の上の蜜柑の皮を盆の上に片づける）
信繁「私も行きます、兄上。おひとりでは大変です」
信之「そうか。すまないな。では徳利をもってきてくれ」（去る）
信繁「はい♪」（去る）
きり「…………」
昌幸「おい、きり」
きり「はい？」
昌幸「どうしてお前が、源次郎を落とすのに三十年以上もかかったのか、よ〜くわかった」
きり「ほっといてください！」（饅頭をぶん投げる）

……きっと昌幸はしっかり饅頭をキャッチして食べているに違いない。

　きりの妄想に追い打ちをかけるかのような真田兄弟の言動（但し天然。笑）。特に信繁、お兄ちゃんが行くといったら、てのひら返しました。しょうがないですね、このブラコンは。なお、お兄ちゃんは、きりと弟のやかましさにキレて立った模様。しかし何気に蜜柑の皮を片づけたり、女子力高いです。少なくともきりよりは。
　ついでに、スルメは、お兄ちゃんが弟に差し入れし損ねた蕎麦の代償に、平野さんを締め上げて巻き上げてきたらしい。そして中の人の料理の腕を思えば、お兄ちゃんに肴の調達を頼む親父はチャレンジャーです。