第四十六回　悪女について

昌幸「まったく。あれほどの美女にあれほど思われているのにその美女を死なせるとは、家康め、実にうらやまけしからん！」
信之「父上。言葉の前半に本音が見えておりますよ。ついでに、後ろに母上がお見えですが」
昌幸「な……」
薫（さめざめ）「まあ、なんと悲しいお話でしょう……我が子と我が家を守るために身代わりになるとは、瀬名様はお美しいお方ですが殿、わたくしにはとてもできそうにありませぬ〜人質さえこわいですうう」
昌幸「いや、お前はそんな真似をすることはない。ないからな、わしがさせん。たとえ源三郎の代わりでも」（よしよし）
信之「……母上にそういう期待は全くしておりませんからご心配なく。というか、よくよく考えればこの件、瀬名殿まで死ぬ必要は全然ないではないか！　最初から、信長殿は何がどうあっても、徳川ごと武田につかせることになっても信康殿を切る、と決めて難癖をつけにかかっているのだ。徳川殿が考えた北条との同盟でさえも交渉条件にならないのだから、瀬名殿の首など何の意味もないのに」
信繁「……そこを、徳川殿も読み違え、瀬名殿も読み違えていますよね……哀れです」
きり「当人はあれだけ必死なのに、視聴者から見れば実は意味がなかった、というところが悲しいわね」
信繁「そうだな。まさかあの石川殿の過去に、こんなことがあったとは。瀬名殿に憧れていたのですね。それは豊臣に出奔もしますね」
信之「うん？　おれは、小笠原の出奔から立場が悪くなって石川殿も出奔したと思っていたのだが、まさか叔父上」
信繁「え、まさか知ってて……」
信尹「真田信尹を侮るな」
信之＆信繁「……（怖すぎる、この人）……」

一言も名前がでないのに、一カットも回想場面がないのに、この圧倒的政次の存在感。おとわの「同じようなことをした奴を知っているからじゃ！」以降、私の中の政次ファンは内心総立ちのスタンディングオベーションになっておりました。これ三河のぼんやりを東照大権現にしたきっかけは政次ではないですか、なんということか。
それにしても瀬名様……必死なのはものすごくものすごくよくわかるのですが、この見事なまでの悲劇的空回りはやはり「井伊の血だ……」と。実にお美しゅうございました。 なお、今回の、ぼんやりをかなぐりすてたガチのキレっぷりからして、本作では、家康は本気で信康を救おうと必死だったのだと思います。だがこの、信康を救うという意味では意味を成さなかった北条＝徳川同盟が、武田の息の根を止める遠因になるんだよなあ……氏真、また本人も知らずして武田にとどめ刺しています……