第十六回　綿毛の案

信繁「今回は井伊での人手集めの話でしたね。ちょっとほっこりしました」
信之「そうか？　おれは、自分でも苦労したあれこれが思い出されて」
昌幸「お前も歌ったのか？」
信之「父上、そういう意味ではありませぬ。戦や天災で荒れ果てた耕地に耕作者を呼び戻すのに苦労した、という話です。三年荒野もやったのですよ」
出浦（突如出現）「そして、噂を流すのもやったな」
信之「え？　出浦、いつの間に」 （いたんだ？、噂を流したんだ？？）
昌幸「踊ってか？」
出浦「わしの手下を使って、今回の但馬の策のごとく、佐久に噂を流したのじゃ。真田領で不作地を耕作すれば三年は作り取り、百姓になれる、と。だから、佐久の牢人がけっこう定住してきただろう」
信之「そ、そういえば……」
出浦「三年荒野は佐久の仙石もやっていたようだが、広報活動の勝利だな。泰平の世でも、素破にやれる仕事がある、ということじゃ」
信之「恐れ入りました」
きり「今回は、今川相手に四苦八苦しなくてよかったせいか、政次さんも笑えたわねえ。直虎ちゃんに仲間はずれにされて、腹いせに六左を締め上げてその顔をぞうきん掛け」
信繁「いや、それはちょっと違うと思うんだが」
信之「だが、なつ殿が小野に帰ってきたり、六左衛門殿が自然に訪問するようになったり、いい傾向だとは思うぞ。和尚もいっていたが、政次殿の力をどう生かしていくか、が直虎殿に問われるところだろうからな」
昌幸「ま、政次は直虎にべた惚れだから、あとは直虎がどう、おのれのこだわりを乗り越えていくか、という問題だがな」
信繁「このまま、今川が安泰で平和なら、井伊の皆さんも領地経営に邁進できたのでしょうけどね……寿桂尼殿が倒れて、えっと、これからどうなるんでしたっけ」
信之「……知らない方がいいと思うぞ。そうですよね父上」
昌幸（目そらし！）

　お兄ちゃんの領国復興の苦労と功績を何故描写してくれなかったんだ真田丸、という恨みを、おんな城主直虎で晴らしているかのような、第十三回以降の展開です。今回の「三年荒野」も、真田領でも行われており、佐久地方の牢人が真田領に定住しているのも史料に残っています。出浦さんの策動は私の想像ですが、ほんとうに素破の頭領だったなら、これくらいのことはやってそうだ……