第四回　女子にこそあれ次郎法師

信之「……………」（炬燵に突っ伏している）
信繁「兄上？」
信之「井伊殿には世話になったから、ご先祖をとやかくいいたくはない。いいたくはないが……」
信繁「別にかまわないのでは？　ご本人ではございませんし」
信之（がばっ）「どうして目の前しか見えないのだ！　問題は小野和泉守ではない、となぜわからん！」
信繁「ですよね〜」
信之「小野をここで殺してどうするのだ。今川からの要求が直接井伊に突きつけられてくるだけだろうが！　下手したら攻め滅ぼされるぞ」
信繁「まあまあ。直盛殿だけはそこはさすがにわかっているようですし。だから止めたわけで」
信之「結果として父上なみの自作自演になったわけだが、最後がまずい。なんとか小野の頭を抑えたようだが、嫌っている本音を家臣本人にぶちまけてどうする。小野が気骨ある家臣なら、見切りをつけて今川に走るぞ」
信繁「ですよね〜」
信之「家臣は、喜んで働くようにもっていかないと、結局自分の首を絞めることになるのだ」
信繁「まったく仰せの通りです、兄上」
信之「ああもう、いっそうちの父上を井伊に派遣したいくらいだ……だが……」
信繁「兄上、それはやめたほうが」
昌幸「まったく、小野は何をやっとるのだ。あそこまでいわれたら、さっさと井伊に見切りをつけて今川を使って乗っ取らないか。わしならそうするぞ」
信之「……だよな」
信繁「ですよね」
きり「そうだわ。わたしもおとわちゃんのように、僧になって源次郎さまの竜宮小僧にな」
信繁「やめておけ」
きり「なぜよ！」
信繁「あの食事を見ただろう。食いしん坊で大食らいのお前に耐えられるはずがない」（断言）
きり「………」

　信之兄上の反応が、今回の小野暗殺未遂事件に対する私の反応です。直盛さん、頑張ったけど最後がまずいわ。そこで小野さんに本音ぶちまけちゃいけないわ。「直満領の半分で妥協しろ」というところはいいけど、「お前の苦労はわかっているが家中の反感も考えろ」というふうにもっていかないと、小野さんが本気で見限って、今川を使って井伊を乗っ取ろう、と考えてもおかしくないのよ。もっとも、本作の小野さん、幸か不幸かそこまでの度胸はないようですが、昌幸の十分の一でも戦国武士だったらやるわ……