2005/12/18up
あなたの赤いコート
| 「ところでアル、ちょっと気になってたんだけどな」 「門」を破壊するやら、ハイデリヒの葬儀の手配をするやらのもろもろの雑事を片づけて下宿に帰り着いてから、エドワードはようやく切り出した。実は、弟と再会したときから気になっていたのだ。 「それ、オレのか？」 「ああこれ？」 アルフォンスは、自分の着ている赤いコートを見下ろした。 「うん、兄さんのだよ。リゼンブールに残ってたから」 「なんで、お前が着てるんだ？」 「兄さんに会ったとき、すぐにわかるようにって」 そう笑うと、アルフォンスはほっとしたように呟いた。 「でもよかった、兄さんに会えて。これ、そろそろきつくなっていたんだ」 そう呟きながら、確かに寸足らずの袖や裾を引っぱる弟の姿に、エドワードは微妙に頬を引きつらせた。 「…………ちょっと待て」 声が妙に低くなる。 「アル、お前いくつだっけ」 「十七。あ、でも体は十三か」 「…………それで、きついって？」 「うん。このごろ、ずんずん背がのびちゃって。ボク、成長期みたい」 悪気のない弟の言葉に、エドワードは頭を抱えた。 「…………オレはそのコート、十六まで着ていたんだぞ」 「あ、じゃあ兄さん」 ふかあく傷ついている兄の心も知らず、アルフォンスは無邪気にいった。 「着てみてよ、いまも着られるかも」 「おい」 エドワードがとっさに反応できずにいるうちに、脱いだコートを手にしたアルフォンスは背に回った。あれよあれよという間に赤いコートが肩にかけられる。 「うん、ぴったり。ついでに」 何やら思いついたらしく、兄の髪留めをとる。 「髪も三つ編み」 さっさと兄の金髪まで三つ編みに編み直し、正面に戻って、アルフォンスは手を叩いた。 「うわあ、昔のまんまの兄さんだ〜」 「…………あのな、アル」 肩に赤いコートと黒い空気を背負って、エドワードは立ち上がった。 「なに？」 アルフォンスが小首を傾げる。そんな悪気ゼロの弟に向かってエドワードは絶叫した。 「…………だあれが、十八になっても十一の時のコートが着られるちびっ子だああ！」 兄の「地雷」をようやく思い出したアルフォンスが逃げ出した。 「うわああ、兄さん、ちょっと待ってよ！」 「黙れ、一発殴らせろ！」 天井から響いてくる地響きに、グレイシアは顔を上げた。 「あら、早速兄弟喧嘩かしら」 そのまま、ぱらぱらと落ちてくる埃の中、彼女は平然と店先の花を生け直した。 「ほんとに、仲がいいのね」 |
映画本発売記念SS。
映画の後刻談。いや、アルの着ていったあのコートはどうなったのか、と思いまして。